不妊治療はなぜこんなに苦しいのか? 自己否定の輪から抜けだすには

前回は「なぜ不妊治療中に夫とのコミュニケーションが大事なのか」という記事を書きました。

今日は社会的背景の中で不妊治療中の女性はどのような位置にいるか、そしてどのように自分を追い込んでしまいがちか書いてみたいと思います。

社会的背景を理解することで、落ち込みのメカニズムを理解し、自分を客観的にとらえること、そして必要以上に自己卑下することを防ぐのが目的です。

社会が求める女性像

不妊治療中は「なかなか妊娠しないこと」が気持ちの落ち込みの原因と思われがちですが、そのほかにも「女性はこうあるべき」という社会から求められている女性像とのギャップも原因のひとつになっています。

〜 一般的に女性に対して社会が求める女性像 〜

・女性は子どもを産むもの
・子どもを産んで一人前の女性
・子育てをするのが女の幸せ

私たちは普段からいつもこれらを意識して生きているわけではありません。
いずれも、このレールにすんなり乗れる場合はたいした問題になりません。
当たり前と思われていることを、当たり前に実現していくわけですから、なんら疑問も持たないでしょう。

しかし、当たり前と思っていたレールに乗りたくても乗れない場合はどうでしょう。

望んでも望んでも手に入らなかったら?
また、自分はそうは思っていないのに、周り(義母や夫など)から強要されたら?

こうしたステレオタイプは、知らないうちに私たちの胸の奥底に染みついています。
不妊治療中の欠落感や焦燥感には、こうした背景が少なからず関係しているのです。

ステレオタイプ(英: Stereotype、仏: Stéréotype)とは、判で押したように多くの人に浸透している先入観、思い込み、認識、固定観念やレッテル、偏見、差別などの類型・紋切型の観念である。(ウィキペディア)

そのほかにも「妻として」「嫁として」なども強力なステレオタイプです。

ちなみに男性には・・・
男は働いてお金を稼がなければいけない、弱音を吐かずに頑張らなければいけない、泣き言を言ってはいけない、男らしく強くあらねばいけない、などなど。
ですから男性不妊の方も相当キツいと思います。
また働く男性でメンタルがやられてしまった人、職を失ってしまった人なども、ステレオタイプと自身のギャップに苦しみます。
もともと男性は女性に比べ感情を表出することを推奨されていないので、ツイッターで悩みを共有するとか、オフ会で情報交換するなどといったことはあまりしません。人知れず悩み、男性としての尊厳を根底から否定されたような気持ちを抱いているのです。

自分を追い込む思考パターン

またステレオタイプは別の側面からも私たちを苦しめます。

・妊娠は喜ばしいもの
・祝福されるべきもの
・赤ちゃんは誰から見ても可愛いもの

本来ならば本当にその通りで、子どもがほしいと切に願う前は、そして不妊治療で苦しむ前は疑いもしなかったと思います。
しかし、周りがどんどん妊娠していくのに、自分は一向に妊娠できないとしたらどうでしょうか?
だんだんと絶望的な気持ちになり、本来喜ばしいことを祝うことができなくなっている自分に気づくはずです。

友人の妊娠に心からおめでとうと言えない
同僚の出産に胸が痛む
小さな子どもをつれたお母さんを見ると胸が苦しくなる

そして、こんなダークな思いを抱く自分に

心が狭いのではないか
気にしすぎる自分がおかしいのではないか
人の幸せを妬むなんて性格が悪すぎるのではないか

とダメ出しをし、なんて小さな人間なんだと自分が嫌になっていきます。
ましてやこんなことをなかなか人に言えるものではありません。
ひとり胸の内に抱え込んでどんどん自信を失っていきます。

予想もしていなかった「子どもができない」という事態に、治療が長引けば長引くほど、自分を責めるという負のサイクルにはまっていきます。

そしてこの負のサイクルから抜け出すのは非常に困難です。

不妊治療中の個人的な側面と社会的な側面

このように不妊治療には、

赤ちゃんがほしい→でもできない→落ち込む 

といった「自分の望むものが得られない」という個人的な側面と

赤ちゃんがほしい→女なんだからできるはず→あれ?女なのにできない→他の女の人はできてるのに→私、もしかして子どもできないの?→子どもがいない人生を送るの?

といった「社会が求める女性像とのギャップ」という社会的側面があるのです。
この二つの側面がじわじわと治療中の女性を追い込んでいきます。

あなたはひとりじゃない

現代の社会で、誰とも比較せず、社会の求める女性像とも比較せず、ありのままの自分をいいと思うのは至難の技です。
それでは、どうすればいいのでしょうか?

一つ目は

苦しみはあなた一人のものではなくて、女性が抱える社会的な問題でもあるということ
個人の出来事が実は社会の大きな問題を映す鏡になっているということ

これらを知っておくことです。

連綿と続く女性の歴史の中で、多くの女性が同じ苦しみを味わってきました。
ステレオタイプの中身は時代と共に変わりつつありますが、いつの時代でも「女性はこうあるべき」という目に見えない重しがのしかかっています。

治療がうまくいかず「赤ちゃんがどうしてもほしい」と胸が締め付けられるように苦しくなったとき、社会的背景を思い出して、

純粋に赤ちゃんほしいけど、
それだけじゃなくて女としても色々と背負っているのかもしれない、
だからこんなにも苦しいのかもしれない

と客観的に自分の状況をとらえてみるのはとても有効です。

あなたは1人ではありません。
あなたの後ろに同じ苦しみを味わった数多くの女性たちがいます。

私は、自分の苦しみを一歩引いたところから見ると、社会における自分の立ち位置が見えてきて、

女の人は何も言わないだけでたくさん苦しんできたんだ
みんな普通の顔して歩いてるけど、いろいろあるんだろうな

と思えて励まされましたし、一人じゃないと思えました。

人権尊重の視点から

不妊治療中の女性に知っていてほしいことの二つ目は、アサーティブ的な視点です。(アサーティブとは自分も相手も大切にしたコミュニケーションのこと)

私たちは通常自分の価値を、

これまで積み上げてきた所有の有無
他者と比較して自分が優れているのか劣っているか

といった、いわば「上か下か」のスタンスで自分の価値をはかっています。

これを自分の価値をはかる唯一の尺度にしてしまうとかなり苦しくなります

とりわけ不妊治療中の女性は、所有の有無でいえば、

子どもはいないし、
お金もどんどん減っていくし、
治療との両立で仕事もしんどくなっていくしで「こんな私が好き!」とはなかなか思えません。

しかし、アサーティブは人権尊重を土台としたコミュニケーションの思想とスキルなので、

こうした尺度だけが人の価値をはかるものではない
所有の有無があったとしても人間としての尊厳にはなんら違いはない

と考えます。

従来の力関係は永続的に保証されたものではなくて、人生のライフステージによって失うものもあれば新たに加わるものもあります。
だからこの力関係だけに頼って自分の価値を決めたり、他者に対する立ち位置を決めなくてもいいのです。

上か下かの『縦』の尺度だけではなく、なんの条件付けもせずに『横』並びの価値観があることを知ると、自分の優位性を証明するための攻撃的なコミュニケーションから、自己信頼に基づいた対等なコミュニケーションへと変化していきます。

この「自己信頼に基づいた対等なコミュニケーション」という考え方が、あなたを不用意に傷つくことから守り、そして人としての尊厳を守ってくれるのです。

本当にあなたはダメなの?

私は不妊治療中に自分の存在意義が根底から崩れていき、なにをしていてもつらく悲しい時期がありました。

これまでいいと思っていた自分の経歴や、物事への向き合い方が、もしかしたら子どもを早く作ることを阻んでいたのではないか。
仕事に夢中になりすぎて、一番大事なものを失ってしまったのではないか。
こう思って自分を責めたのです。

それでも

待って、あなたの価値はそれだけなの?
本当に、あなたはダメな人間なの?

とアサーティブな視点から小さな声で耳打ちしてくれる自分がいました。
そうすると、うつむいていた顔が上がり、自分の悲しみを受け止め、目の前の小さな事を丁寧に取り組んでいこうと思うことができたのです。

きっとこの先も、子ども連れのお母さんを見て胸がチクっとすると思います。
だからといって、私は何も感じない人間にはなりたくないと思っています。
「ああ、チクッとしたな」と自分の体の感覚に気づける人でありたいし、これが今の自分なんだと何の否定もせずにそのまま受け止める人でいたいと思っています。

ですから、いま傷だらけで、痛みを抱えながらも日々努力しているあなたも、ご自分をどうぞそのまま愛してあげてほしいなと思います。

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